日本語は外国語

「貸してください」と「借りてください」

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日本語教育の専門的な観点からではなく、あくまで一般企業内で外国人に接した時に聞くであろう日本語の間違いと、なぜそれが起こるのかについて、これまで多くの留学生を見てきた日本語教師としての分析をわかりやすく述べたいと思います。

社内でのコミュニケーション改善に役立てていただければ幸いです。

「貸す・借りる」 「あげる・もらう・くれる」 「〜てください・〜させてください」

普段、日本語を教える中でこれらを定着させることは非常に難しいと感じます。

みなさんの同僚の外国人社員はどうでしょうか?

これらの表現、うまく使えていますか?

もし使えているなら、その方の日本語力はなかなかのものだと思います。

「貸す」「借りる」

私たち日本人からすると、「違うじゃん」と思うのが普通ですよね。

でも、形を少し変えて「かます・かます」にしてみると、
たったの一字違いで字数(拍)も同じなんですね。

日本語を使い始めてまだ間もない外国人にとっては、
違いに慣れるまで少し時間がかかる言葉の一つです。

さらに彼らを悩ませるのは、これらの後ろに
「〜てください」「〜てもいいですか」「〜ていただけませんか」
などがついた場合です。

こうなると、一気に混乱する人が増えます。

綺麗に使えている人はこれまで数えるほどしか会ったことがありません。

では、外国人にとって何がそんなに混乱するのか、を分析してみます。

1.音が近い(語頭が同じ「か」)

2.中国語では「貸す」と「借りる」に同じ語を充てる

3.日本語では主語を省いてしまう

1.音が近い

先ほども少し触れましたが、まず音が似ています。

これが原因でなかなか覚えられない人は実際に多くいると感じます。

英語だと「lend」「borrow」なので、まったく違う単語です。

「かります」「かします

似ています。

2.中国語では「貸す」と「借りる」が同じ語

中国語圏の人限定になりますが、
中国語ではこの二つを同じ単語「借」で表すそうです。

では、どうやって区別しているのかというと、
のちの「3.主語を省略する」でも詳しく話しますが、
動作主と対象が誰かを明らかにすることで「貸す」「借りる」を区別しているそうです。

つまり、誰がする、誰にする、をはっきり言うということですね。

自分の母語では一つの単語で両方を表しているのなら、
「使い分ける」という意識を持つには時間がかかるかもしれません。

3.日本語では主語を省く

ご自分のことを振り返ってみてもらえるとわかるのですが、
主語を使って話す機会は意外と少ないですよね。

特に一対一で話している時は相手の名前すら言わない時が多いです。

「あなた」などはほとんど使いませんし、使うと逆に失礼に聞こえることもあります。

「彼、彼女」も「恋人」という意味での使い方はしても、
それ以外で使うとなんとなくキザな感じもしますし、少し突き放したような言い方になります。

つまり、一対一で話している時や、話題になっている人がお互いにしっかり認識している時には
主語をわざわざ言わない、というのが日本語なのです。

2の中国語の例に戻ります。
「主語と対象をはっきりとさせることで意味を理解する」
という言語を使っている人にとっては、主語を言わない日本語こそ『???』なのだと思います。

1.この本、貸して。
2.この本、借りてもいい?
3.この本、貸していただけませんか?

 

1と3・・・あなたが貸す、ことをお願い→「貸してください」「貸していただけませんか」

2・・・・・私が借りる、ことが可能か聞く→「借りてもいいですか」

誰が誰に貸すのか、借りるのかはその場にいる当事者同士ならわかりますが、
それをいざ言葉にして言おうと思った時に「貸す・借りる」のどちらかを選ばなければならない。

でも主語はない。

さらに、後ろにつくフレーズ(〜てください/〜てもいいですかetc)によっても
使い分けなければならない。

これではハードルが高いと言わざるを得ません。

「てあげる」「てもらう」「てくれる」

これらも外国人にはややこしいようです。

⭕️「貸してあげます」

❌「借りてあげます」→ ⭕️「借ります」

⭕️「貸してもらいます」

❌「借りてもらいます」→ ⭕️「貸します」

⭕️「貸してくれます」

❌「借りてくれます」→ ⭕️「貸します」

普段自分たちが使っている言語ですが、改めてその使い方を考えてみると新鮮ではありませんか?

そう考えると日本語を一生懸命に使おうとしている外国人の皆さんの苦労がわかり、
理解を示そうと思えるのではないかと思います。

「〜させていただけませんか」

最後にもう一つ厄介な使い分けをご紹介したいと思います。

①すみません。体調が悪いので、先に帰らせていただけませんか。

②すみません。体調が悪いので、先に帰っていただけませんか。

③プロジェクトの企画書を作ったんですが、確認させていただけませんか。

④プロジェクトの企画書を作ったんですが、確認していただけませんか。

 

①④→⭕️  ②③→❌

「帰らせる」という動詞の形を日本語教育では
「使役形(しえきけい)」という文法用語で呼んでいます。

上に出したいくつかの例文のように間違えても、
この間違いの場合はすぐに「間違い」と気づくので、相手を不快にさせることはないと思います。

僕自身も、これまで不快になったことはありません。

・「〜ていただけませんか」は相手がすること

・「使役形+ていただけませんか」は自分がすること

ただ、③④の文で、

「企画書、確認して(させて)いただけませんか」

だけだと、状況によっては「??」と思われる可能性もあります。

誰が確認するのか、がはっきりわからないからです。

それでも、その場合は必ず聞き直すでしょうから、大きな問題になるとは考えにくいです。

最後に

このように日本語には文法的に難しいものだけが「難しい日本語」ではなく、
実は普段何気なく使っている表現にも「使い方」という面では難しいものが多くあるのです。

「こんな簡単な言い方もできないなんて」

こんな風に思う前に、是非一度相手の立場に立って考えてみてあげて欲しいと思います。

僕自身は言葉自体よりもそれがどう作用するのかの方がはるかに大事だと思っています。

このブログのタイトルでもある「コムニカチオ」の意味でもありますが、
「伝える」だけではなく、お互いが共有し「伝わる」言葉の使い方こそ、
コミュニケーションに値するものだと信じています。

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