社内でのコミュニケーション改善に役立てていただければ幸いです。
「行かない」と「行けない」
Q.上の二つの文の違いを説明してください。
Q.あなたはこの二つをどのように使い分けていますか。
一瞬「ん?」となりましたか?
日本人であれば、普段のご自分の使い方をすぐに思い出してみてください。
そうすれば、どんな時に使っているのかを具体的に例を挙げて説明できるはずです。
日本語を学ぶ過程で、この二つの違いについては外国人もしっかり勉強しているはずです。
(独学の場合は除きます)
しかし、これまで外国人に日本語を教えてきた経験から言いますと、
「行けない」という動詞が変化した形がなかなか使えるようにならない人が実に多いのです。
どんな場合でも、「行かない」を使ってしまう外国人が多いんですね。
ちなみに、この「行けない」という形を日本語教育では「可能形(かのうけい)」と呼んでいます。
使い分けと問題点
この二つがしっかり使い分けられないと何が問題なのかというと、
自分の意思とは違うことを相手に伝えてしまうことになる、ということです。
「行かない」→自分の意思。行きたくないという意思表示。
「行けない」→自分の意思ではない。
行きたい気持ちはあるが、行くことができない要因がある。
もうお気付きの方もいるのではないかと思います。
「行けない」と言いたかったのに「行かない」と言ってしまうと、
相手はどのように受け取るでしょうか。。
「週末の送別会、参加できますか?」
「送別会ですか。行きません」
「仕事、終わった?一緒に帰らない?」
「帰らない」
とってもぶっきらぼうで、相手の誘いを無下に断っているように聞こえませんか?
日本人なら、まず使わない言い方です。
ほとんどの人は「行けない」「帰れない」と言うのではないでしょうか。
ただ、実は「行けない」「帰れない」だけでも不十分で、
「〜ので」や「〜んです」としっかり理由を言う必要はあります。
上記のような「行かない・帰らない」という言い方は
誘われたり提案されたりした時の返答としては不適切と言えます。
なぜか。
① 否定的な表現を自分の意思として発するとコミュニケーション上よくない。
② 何かわけがあって「できない」のに、
「したくない」という強い否定の意思が相手に伝わってしまう。
否定的な表現を自分の意思として発するとコミュニケーション上よくない
まず、①についてですが、日本社会では否定表現をはっきり言うのを避ける傾向にあるのは
ご存知かと思いますし、別の記事(「否定表現」)でも書いています。
たとえ、気が向かないことでも、それをはっきり相手に伝えるのではなく、
「したい気持ちはあるができない」と伝えることで、相手を慮った言い方になります。
ましてや、相手が善意で誘ってくれている場合などに
「しない」とはっきり意思表示をして断ることは、
その後のお互いの関係にも影響を及ぼしかねません。
ビジネスの場では、たとえ「できない」と言っても、
相手側は「する気がないな」とわかっているとは思います。
それでも、それが日本社会でのマナーですよね。
相手をちゃんと意識している、というのが大事なのです。
相手のことを考えない発言は日本社会では嫌煙されます。
何かわけがあって「できない」のに、
「したくない」という強い否定の意思が相手に伝わってしまう
次に②についてですが、これは完全にミスコミュニケーションで、
双方にとってマイナスになります。
自分はこういうつもりで言った。
でもそうは伝わらなかった。
相手側も間違った情報を受け取っているが、
それには気付かず、聞いた発言が相手の意思だと思ってしまう。
誘われたことに対して、「したいけど無理なんだ」と伝えているつもりなのに、
「したくない」と口では言ってしまっていたとしたら、
本心ではないことを伝えていることになりますよね。
ましてや、それが相手の善意に対する返答だとしたら、
取り返しのつかないことにもなりかねません。
なぜ可能形が使えないのか
可能形(かのうけい)という形が日本語教育にはあるとこの記事の初めに書きました。
学校の国語学習では出てこない言葉なのですが、
書いて字のごとく、可能「〜できる」ということを表現するときに使う動詞の形です。
可能形の用法としては、個人の能力を表す場合と、
特定の状況下での可能なことを表す場合に使います。
元の動詞を変形する必要があります。
これがなかなか外国人には定着しないんですね。
英語などではcanを使い可能の意味を表しますから動詞自体は変形しないのですが、
日本語では動詞自体が変化するというのが外国人にとっては難しいようです。
(「行くことができない」というふうに動詞を変化させない言い方もあります)
この文法的な間違いというより、コミュニケーション上の問題点は
会社などで働く外国人にとっては、できるだけクリアにし、減らしていきたいものの一つです。
文法的な間違いなら、日本人が聞いても「あ、きっとこう言いたいんだろうな」と
推測して理解してあげることはできます。
しかし、相手の捉え方によるミスコミュニケーションは
日本人にも起こり得る難しいものです。
それ故、なかなか間違いとして指摘されず、治りにくいのです。
対処法
対処法としては文法的な動詞の変形が伴うので、
しっかりとした講習なり、専門的指導が必要になると思います。
それも、繰り返しの指導です。
今までの経験だと、一度言っただけではほぼ治りません。
その時は理解し、「あぁ、間違えた」と真剣には受け取るのですが、
しばらくたつと忘れているというのがほとんどです。
社内などで、定期的に日本人社員、外国人社員の双方から聞き取りをし、
それらを元に改善できるところは改善し、
誤解が生まれないような環境づくりを目指していくのが一番ではないかと思います。