日本語は外国語

トラブル注意!「なんでもいい」と「どうでもいい」

  • LINEで送る
日本語教育の専門的な観点からではなく、あくまで一般企業内で外国人に接した時に聞くであろう日本語の間違いと、なぜそれが起こるのかについて、これまで多くの留学生を見てきた日本語教師としての分析をわかりやすく述べたいと思います。

社内でのコミュニケーション改善に役立てていただければ幸いです。

「なんでもいい」「どうでもいい」

「ランチ、どうする?」
「なんでもいいよ」

 

「ランチ、どうする?」
「どうでもいいよ」

外国人の中には、上のように「どうでもいい」と返事をする人がいます。
でも、彼ら自身は、「なんでもいい」という意味で使っているんです。

「なんでもいい」と「どうでもいい」は同じだと思っている外国人が結構いる、ということなんですね。

上の二つの会話はどちらを使っても意味は通ります。
でも、その意味は大きく異なります。

自分の意図したことと違うメッセージが相手に伝わってしまう

日本語に限ったことではありませんが、
このようなところが外国語を使うときの難しさであり、
また気をつけなければならないところなのです。

使った本人は自分が言ったことに問題があることに気づいてはいません。
ですから、相手が不快に思っても発言した本人は「どうしたの?何を怒ってるんだろう?」となります。

それを見て、また日本人のほうも「全然気にしてないんだ…」となり、さらに距離ができてしまう。

この繰り返し、悪循環ですよね。

ちなみに、上で紹介した二通りの答え方ですが、皆さんはどのように使い分けていますか。

「ランチ、どうする?」
「なんでもいいよ」

これは「選択肢」の話をしています。

ランチには何を食べるか、という選択肢があります。

聞かれた方は何を食べることになっても構わない、
という気持ちで「なんでもいい」と答えています。

特にこだわらない
あなたに判断を委ねる
自己主張を控える

という意味合いがあるでしょうか。

同じように疑問詞を使えば、他にも様々な使い方ができます。

「どこでもいい」「いつでもいい
「誰でもいい」「いくらでもいい」…

「ランチ、どうする?」
「どうでもいいよ」

では、こちらの会話はどうでしょうか。

「どうでもいい」を使うと、

ランチなんて大事なことではない
自分には関心がない
自分は知らない

というメッセージを相手に送ることになります。

相手はあなたとランチに行きたいから、あなたの意見も聞いています。
自分だけで決めるのも悪いので、あなたに意見を求めています。

それなのに、「考える必要がない」「興味ない」というメッセージを伝えてしまっては、
コミュニケーションの観点から考えると適切ではありませんよね。

不快に思う人がほとんどでしょうし、
もうランチには誘ってくれなくなるかもしれません。

この二つの表現については、
日本語を学習する際にしっかりと使い分けの練習をしていない、
というのが間違いの原因の一つとしてあげられると思います。

会話や文中にでてきても教える側も文脈に沿った使い方しか教えませんし、
学ぶ側は「こんな意味かなぁ」となんとなく意味と使い方を覚えているだけのため、
実際に会話では上記のような間違いが生まれるのだと思われます。

わざわざ「なんでもいい/どうでもいい」の両方を出して違いを説明するということもしていません。

なぜ「どうでもいい」を使うか

実は、日本語教育の現場では「どうでもいい」は教えていません。

テキストや問題の文章の中などには出てくることがありますが、
この表現だけを取り上げて、練習する日本語テキストも僕は今まで見たことがありません。

では、勉強してもいないのに、
なぜ外国人には「どうでもいい」を使う人がいるのかということが疑問として浮かびます。

はっきりしたことはわからないのですが考えられるのは、

便利だから

です。

なぜ便利かというと、先ほどちょっと触れましたが、
「〜でもいい」は状況によって疑問詞を使い分けなければなりません。

時間なら「いつでもいい」

人なら「でもいい」

場所なら「どこでもいい」

使うたびにどれを使うか考えるのは面倒だから、
それをひっくるめて「どうでもいい」一つで済ませてしまっているという可能性です。

おそらくどこかで見聞きした「どうでもいい」を汎用性のある言葉として覚えたのでしょう。

別記事の「助詞」にも書きましたが、

種類が多くて使い分けが大変な言葉の場合、
自分が知っているルールに当てはめて一つで済ませてしまう

ということが外国人にはよくあります。

もしかしたら、この「疑問詞+でもいい」にも同じことが当てはまるのかもしれません。

なんでも、いつでも、誰でもいい時=「どうでもいい」

対処法

では、このような使い方をしている外国人にはどのような対応をしたらいいか。

上に書いたように、「なんでもいい」「どうでもいい」の二つの表現の違いを
しっかり理解していない外国人が非常に多いです。

まず、そこの説明からしてあげることをお勧めします。

具体例を出し、それぞれがどういう意味を持つ表現で、
相手はどのように受け取るのかを伝えます。

「A案とB案だったら、コスト的にはどちらがいいですかね」

「どちらでもいいと思いますよ」
「どうでもいいと思いますよ」

 

「何か新しい運動を始めたいんだけど、何をしていいか…」

「なんでもいいと思うよ。まずは始めてみたら」
「どうでもいいよ。まずは始めてみたら」

特に問題となりうるのは「どうでもいい」のほうだけです。
「どうでもいい」の意味用法を見ると、下記のようになります。

・自暴自棄の「どうでもいい」

・自分には無関係だと思っている「どうでもいい」

・自分にとっては大切ではない「どうでもいい」

・無駄、必要のないものに対して「どうでもいい」(「どうでもいい物にお金を使う」など)

改めてそれぞれを見てみると、ポジティイブな用法は一つもありませんね。

つまり、使う場面はかなり限られるので、
それほど頻繁に使う表現ではないということがわかります。

それを伝えてあげるだけでも、
頑張って日本語を使っている外国人にはとても有益だと思います。

最後に

普段、僕自身多くの外国人と接する中で、
この二つの使い方の間違いに違和感を覚えることは少なくありません。

でも、それは話している本人の意図した発言ではない場合がほとんどです。
完全にミスコミュニケーションなのです。

企業に限ったことではありませんが、
他言語を使って仕事をするのは私たちが想像するよりストレスのかかることだと思います。

彼らも努力していないわけではありませんが、
面倒な文化的習慣や、日本語の言い回し、言外の意味などは
使いこなすのにそれなりの時間と環境が必要です。

まずそれを周りが理解してあげてください。

その上で、より良い職場環境とお互いのために適切な対応をしてほしいと思います。

小さな間違いから生まれる大きな誤解が少しでも減ることを願ってやみません。

  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*