企業の日本語

日本で働く外国人材の現状と現場からの声2

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実際に日本の企業で働く外国人財と呼ばれる人たちは具体的にどのような不安を抱え、
どのような日本語と日本語レッスンを必要としているのでしょうか。

もちろん、職種や業務内容によって様々ではあります。

一人一人のニーズや置かれた環境は様々ですが、これまで企業で働く外国人達に教えてきた経験から
次の項目が比較的多く必要とされていると感じます。

①敬語/ビジネスシーン特有の言い回し/ビジネス日本語

②説明する力/プレゼン力/ミーティングなどで発言するスキル

③日本語の基本的文法知識

④場面や親疎によって使い分けの必要な言い回し

①敬語/ビジネスシーン特有の言い回し/ビジネス日本語

特に外国人財の多いIT関係では、業務に必要な「スキル」や「経験」が重視され採用されるケースがほとんどです。
もちろん日本語力もある程度は求められるかもしれませんが、優先順位としては低いのが現状です。
入社後の普段の業務でも高いレベルの日本語を求められることはそれほど多くないようです。

そのような業界で働く外国人財に、敬語やビジネス日本語は果たして必要でしょうか?

もちろんできるに越したことはありませんが、そもそも採用の段階で求められていない語学力を

お金と時間をかけて一所懸命磨く必要性を感じません

会社もお金は出さないでしょう。

失礼のない程度、伝えたいことが伝わる程度の日本語力で十分だと思います。

つまり、求められてはいますが、本当に大事なことは別の能力であるということです。

「敬語」「ビジネスメールの独特の書き方」よりも、
「相手を不快な気持ちにさせない言葉の使い方」「説明力」の方が
日本社会では遥かに必要なスキルです。

彼らの要望を汲むのは当たり前ですが、日本人社員のからへのヒアリングなども事前に行い、
個人のニーズと企業側のニーズをバランスよく組み合わせてレッスンをするようにしています。

業種によって違う必要な日本語

扱う日本語に優先順位をつけ、すぐに実際の業務で使えるものを優先的に取り上げていきます。

例えばホテルマンなどのサービス関係では敬語やサービス日本語はマストです。
そうした業種では日本人社員と同じような社内研修を設け一定期間言葉遣いを学ぶのですが、
フレーズと訳を丸暗記というのが研修の主流のようです。

語学教育の視点から見ると、これは問題で課題が多いと言わざるを得ません。

なぜかと言うと、文法的な構造や規則を知らないまま、ただ表現だけ丸暗記してしまうと、
それ以外の場面では応用が利かないからです。

つまり、イレギュラーへの対応力に欠けるわけです。

サービス業でイレギュラーへの対応ができない…これは致命的です。

お客様への対応の仕方次第で組織の評価にも繋がる大変重要な要素だと思います。

そこで我々日本語教師の出番、となるわけです。

「すぐにお持ちいたします」

謙譲表現の「お+動詞マス形+する」、「する」の謙譲語「いたします」から成っている言い方です。

フレーズだけを丸暗記するだけでなく、このような規則も知っていれば、

「お調べいたします」

「(皿などを)お下げいたします」

「ご案内いたします」

*「案内する」はⅢgの動詞に分類され、「する」を取って「いたします」を当てはめる。
*漢語には「ご」が使われることが多い。

このような応用が利きます。

一つの文法的規則を知るだけで多くの場面で使うことができるようになれば学習者の負担を軽減することもできます。
もちろん上達への近道ともなります。

こうした文法的知識がないために不安を抱え、どうしていいのかわからないという外国人財の方々が非常に多いのです。

②説明する力/プレゼン力/ミーティングなどで発言するスキル

ミーティングが多い会社というのは結構あります。

「ミーティングが多すぎて自分の業務が捗らない」
「そもそも集まる必要のない議題なのに…」
「日本人はやたらと顔を合わせたがる」

こんなボヤキを外国人財からよく聞きます。

このことから察すると、日本企業では多くの人の前で話したりプレゼンをする機会は
自然と多くなるということだと思います。

日本語でプレゼンをするというのはかなり高度ですが、ミーティングで話に参加したり意見を言ったりするのは
業務を遂行する上でも、同僚との関係構築のためにも必要なことです。

ビジネスシーンで使われる言い回しや語彙、聴解力が必要となりますが、
「説明力」というのもとても重要な要素の一つです。

難しい表現を使って話すスキルということではなく、人にわかる話し方、説明の仕方というのが求められるのです。

日本語教育の観点から言うと、語彙力、文章の前後関係を明確にする接続表現時制などが重要な要素です。

例えば、フィンテック関連の業務に必要な語彙であれば、

「金融」「規制」「決済」「送金」「資産」「価値」…

といった用語は頻繁に使うため重要度は高くなるでしょう。

どれも普通の日本語学習ではまず出てこない語彙ばかりです。
しかし、彼らの業務で必要な日本語というのは、まさにこのような語彙なのです。

日本で働く外国人財に必要な日本語が現在の日本語学習教材、教育機関ではカバーできていないのが現状です。

加えて、我々日本人は相手が外国人でもほとんど語彙をコントロールしません。

「コントロールできない/コントロールする方法を知らない」

といった方が正しいでしょうか。

ですから、外国人社員はネイティブレベルの日本語に苦労し、自分自身の日本語力の無さを痛感してしまうのです。
企業で働く方への日本語指導は職種や業務にあった語彙や表現を完全カスタマイズで提供してあげる必要があります。

それには教える側もそれらの分野に関する勉強が欠かせなくなりますが…

③日本語の基本的文法知識

外国人財を教えていて感じるのは、文法的間違いが多い人が少なくないということです。

ある程度コミュニケーションが成立する方は多いのですが、「簡単な文法ミス」が多い方が数多くいます。

「昨日食べたのランチは美味しかったです」

「いえ、日本語でメールを書くのは難しいじゃありません」

「詳しいデータは明日出せることができます」 etc 

これらのほとんどは使用しても、特段相手に失礼に当たることはないので、
ビジネスシーンという使用場面を考えた場合、優先順位の高い項目とは言えません。

私たち日本人も、

「そんな細かい間違いより、意思の疎通ができてコミュニケーションがしっかりとれていれば問題ないでしょ。
私たちに文法のことを聞かれても答えられないし…」

こんな風に思うのが普通だと思います。

しかし、彼ら自身は頭のどこかで常に気になっているようです。

私たち日本人も英語の「a」と「the」、どの前置詞を使えばいいのかは英語を話すとき気になりますし、
これができないと自信を持って「英語が話せます」とは言えませんよね。

同じことだと思います。

具体的に彼らから聞くのは次のような「声」です。

「できないことを不安に思っている。なんとかしたいがどうすればいいかわからない」

「国語とは違うので日本人に聞いても『わからない』と言われる」

「コミュニケーションは問題ないが、文法のせいで自分の日本語に自信が持てない」

「それなりの企業で働いているので、今更基本文法について人に聞くのは恥ずかしい」

私たち日本人にとって日本語は「国語」ですが、彼らにとっては「外国語」です。

彼らと同じように日本語を「外国語」として見ることができなければ彼らの悩みの理由は理解できませんし、
適切なアドバイスをしてあげることもできません。

日本語を外国語として見るのに、特別な知識は必要ありません。

今は日本語を学ぶ外国人用に作られたサイトが数多くあります。

「日本語教育」「日本語Eラーニング」「日本語文法」「JLPT(日本語能力試験)」

このようなキーワードを入力すれば、簡単に外国人が学ぶための日本語学習サイトに辿り着くことができます。

外国人と一緒に働いていらっしゃる方は一度ぜひ覗いてみてください。
これまで考えたこともなかったような切り口で、日本語という言語について書かれていると思います。

④場面や親疎によって使い分けの必要な言い回し

例えば、次の文。

「この書類にサインをしてください」

「〜てください」というお願い、依頼の表現を使っています。

「サインして」ではありませんから、決して相手に失礼な言い回しではないことはおわかりになるかと思います。

しかし、です。

これを言う相手をイメージしてみてください。

「同僚」・・・・親疎は考える必要がありますが、問題はないでしょう。

「目下の人」・・目下の人にも一定の敬意を払っているという印象を与えますから好ましい表現とも言えます。

「目上の人」・・ん?

文法的には「〜てください」は〈丁寧なお願い〉と言われていますが、
相手が上司などの目上の人となると使用に違和感を感じませんか。

なぜでしょうか?

実は「〜てください」には「お願い」の他に「指示」の用法もあるのです。

「この資料に目を通しておいてください

「明日のミーティングに出席してください

どちらも上司には使わない言い方ですよね。
「言葉遣いがなってない!」なんて、叱られてしまいそうです。

これらを適切な表現にするには、

・敬語を用いる
・否定的な表現を用いる
・断定を避ける表現を用いる

などのストラテジーが必要になります。
しかし、そんなことは日本社会に入って経験してみないとわからないのです。

これはほんの一例なのですが、このように日本語には親疎、上下関係、場面によって
適切な表現とそうでないものが存在し、それらを使い分けることが必要とされます。

不適切な使い方をしてしまっても相手にこちらの伝えたい「情報」は伝えることはできますが、
不快にさせてしまう危険があリます。

相手を不快にさせる…

これは、仕事、ビジネスの場面では決して楽観的には考えられない問題です

「日本語ではなんと言うか」だけで日本語を覚えると、実際の場面で大変なことになりかねないということです。

このような本当の意味での「使い方」というのを知りたがっている外国人財は非常に多くいます。

実は適切な日本語の使い方というのは資格を持った教師でなくても誰でも教えてあげることはできます。
日本人の性格上、「人を注意する」「間違いを指摘する」ことにはあまり積極的ではないだけなのです。

しかしそれが、彼ら外国人財の日本語の使い方に対する苦手意識や不安をさらに大きくしているのだと思います。

私たちにも何かできることがありそうですね。

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