日本語は外国語

「おもしろくない」はおもしろい?おもしろくない?

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『〜ない』は否定だけではない

自分の意思を表す「ない」

「このデザイン、どう?」
「うん、いいんじゃない」 

 

「報告書、できました。誰に出せばいいんでしょうか」
「報告書?たぶん、部長じゃない」


こんな会話、同僚や上司とよくしませんか?

特に何の違和感も持たずに使っている方が多いのではないかと思います。

しかし、私たち日本人同士では当たり前の日本語も、外国人にとってはわかりにくく混乱するものが多くあります。

上記の会話、「〜ない⤴︎」もその一つです。

「そのデザイン、私はいいと思います

「企画書を出す相手は、部長だと思います

どちらも「私は〜と思う」という自分の意思を伝えたり推量を表す意味で使っています。

しかし…

「〜ない(否定)」なのに
「〜と思う(肯定)」という意味になる

これが外国人には非常にわかりにくいようです。

日本語を学び始めて間もない外国人や日本語の会話表現にそれほど慣れていない外国人は次のように考えてしまいます。

「いい(ん)じゃない」=「よくない

「部長じゃない」=「部長ではない

僕がこれまで教えてきた外国人達にも「ない=否定」という意味で捉えてしまう人が多くいて、こちらの意図したことが伝わらないことが実際に何度もありました。

語尾のイントネーションによって肯定にも否定にもなり得るんですよね。

日本語教育や日本語を外国人に教えたことがない普通の日本人であれば、
「え、そう捉えてしまうの?」
と不思議に思うかもしれませんが当然のことなのです、それは。

なぜなら、
自分たちの言語である日本語を「外国語」として考えたことがないからです。

「いいと思う」と言っているのに、「よくないと思う」と取られるということは、伝えたいことと、実際に伝わることが全く逆になってしまっているということになります。

相手に問いただしたり、別の言葉を補足して確認ができればいいのですが、そうではない時には大きなミスコミュニケーションが生まれてしまいます。

当然、仕事だと業務上大きな支障となる可能性も出てきます。

日本での生活が長く、会話表現に慣れている外国人ならこういった表現をうまく使いこなし、理解することができるでしょう。

しかし、日本での生活が長くても、テキストなどでしっかりとした文法を積み上げて学んだ外国人、丁寧な言い方の日本語を使って仕事をしている外国人にはハードルの高い日本語の会話表現と言えます。

そのような人に慣れた会話表現を使うのは決して親切とは言えません。

では、どのように言えば正確に伝わるのか。

上の例だと次のように言います。

「いいと思います」

 

「部長に出して(ください)」


言い方をこう変えるだけでコミュニケーションは大分円滑になります。

このように言い換えることは我々にとってはそれほどの大きな手間ではないはずです。

問題なのは、
どんな表現が外国人にとってわかりにくいのかを私達日本人が知らないこと。

教科書などで段階的に日本語を学んでいる外国人や、日本語をいわゆる勉強と捉えて文法などを積み上げていく学習スタイルをとっている外国人だと、このような「くだけた」会話表現というのは、相当上のレベルにならないと触れる機会はありません。

日本社会に溶け込んでいる人なら、理屈や理論なしに耳から「スッ」と受け入れられるかと思いますが、勉強が得意な人ほど、このような表現には苦労する傾向があります。

それが僕のこれまでの経験から感じたことです。

そもそも『〜じゃない⤴︎』ははっきりと言うことを避ける曖昧な表現の仕方ですよね。
(「推量」の意味があることからもわかるかと思います)

曖昧な表現を使っているのに、しっかりと自分の意思は伝えているんですね。

「曖昧表現」、日本人が好む表現方法です。

外国人に対しては曖昧表現は避けるべき

まずはそこから気をつけてほしいと思います。
きっとそれだけで外国人とのコミュニケーションの質が大きく変わるはずです。

相手の同意を求める「ない」

他にも似た表現でコミュニケーションギャップを引き起こしかねない例をあげてみます。

「責任者の俺に一言もなくプロジェクト打ち切りだって。ひどくない⤴︎」
「え、本当ですか。それはひどいですね」

 

「この企画、おもしろくないですか⤴︎」
「確かにアイデアとしては斬新でおもしろいね」


「ひどくないですか?/おもしろくないですか?」と質問しているわけではありませんし、「ひどくないです/面白くないです」と否定しているわけでもありません。

「ひどいでしょ/おもしろいですよね」という相手に共感を求める言い方として使っています。

実は発音やイントネーション、使用状況によっていくつかの意味が考えられるのですが、この「いくつかの意味が考えられる」ことこそ外国人にわかりにくくなる最大の原因なのです。

次のように言えば誤解は大分減るでしょう。

「私はひどいと思います。〇〇さんもひどいと思いますか」

 

「私はおもしろいと思います。どうですか」


現状では日本語教育機関でこれらのカジュアルな日本語の会話表現を教えることはほとんどありません。
テキストでもこれらに触れているものはごく一部です。

ある程度日本語教育機関で勉強し、語学テスト(JLPTなど)にパスしたからといって、彼らの日本語力を過信しないほうがいいです。

特にテスト(日本語能力試験JLPT)は会話力を測りません。

聴く力、読む力、語彙力、漢字、文法で合否を決めているだけです。

まとめ

近年日本に来る外国人が増えてきているということは、言葉による問題も増えていると考えるのが普通です。

私たちには
日本語を客観的に見る、つまり、

「外国語として考えてみる」

これが必要とされてきているということだと思います。

そうすることで初めて、コミュニケーションの本質である「共有する」ことの実現に近づくことができるのではないかと考えます。

コメント

  1. いぬ研究所 より:

    もともとが疑問文なので、肯定なのか否定なのか判断しにくい場合があるのは仕方のないことです。
    中学校の英語で「Why don’t you …?」が出てきた時も、同じように悩んだ記憶があります。

    1. yoshikazukenmochi より:

      コメントありがとうございました。
      外国人の視点から考えると、「おもしろくない」「おもしろくないですか」は誤解を招きかねない表現なんですね。
      否定なら「おもしろくないです」、同意を求めるなら「私はおもしろいと思います。どうですか?」など誤解の生まれにくい言い方をすることで
      ミスコミュニケーションは減って行くのではないかと思います。
      日本語は非常にハイコンテクストな言語であるということが、外国人にとっては「難しい言語」になってしまうのだと思います。

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