漢字の予測変換という機能がありますよね。
おかげで普段から僕も随分と楽をさせてもらっているのですが、
一方で漢字離れや漢字が書けなくなっている原因の1つだとも言われています。
日本語を教える仕事をしているとよく勘違いされるのですが、
僕は漢字が得意なわけではありません。
あくまで皆さんと変わらない一般的なレベルです。
漢字マスターである必要は全くないんです、日本語を教えるのに。
学習者の方々にとっても、こちらが詳しいに越したことはないと思いますが、
本当に求めているところはそこではないことが多いんですよね。
漢字に長けていても日本語をうまく教えることは当然できません。
できないことを棚にあげているわけでは決してなく、
何が重要かという優先順位のお話です。
漢字という表記
このところ漢字を書く機会がめっきり少なくなりました。
仕事や日常生活でもPCやスマホが主流になってきて、
漢字が書けないと困るような状況自体が少なくなってきていることが、
漢字離れと書けなくなった大きな一因と言えると思います。
漢字は日本の1つの素敵な文化、そして芸術。
僕自身はそう思っているのでなんだか寂しい気もしますが、
あくまで伝える媒体の一つであること、伝える手段の変化、時代の流れ、
という捉え方をすると逆らうこともできないような気もします。
わからない漢字があったらその都度調べれば良い、
今後はそんなスタイルが確立されていくのかもしれません…
そもそも、複数表記、しかも3つ、というのは他言語では類を見ず、
日本語のハードルをさらに高くしてしまっています。
(韓国は少し前までハングルと漢字を一緒に使っていましたが、
最近ではほぼ漢字は使われていないということです)
日本語学習者にとってもこの復習表記は非常に大きな壁で、
しかもそれぞれの表記を目的によって使い分けたりする、
なんて技を使いこなせるようになるには気の遠くなるような努力を要します。
特に非漢字圏と言われる国(漢字を使わない言語を持つ国)の方々にとって
習い初めの頃は漢字は ”呪文” でしかありません。
苦労は計り知れないものがあります。
予測変換は全ての人にとって便利なものなのか?
さて、予測変換の話に戻ります。
日本語学習者の皆さんにとっても文字を書くのはもっぱらPCやスマートフォン
というのは我々となんら変わりません。
しかし私たちと同じように予測変換機能の恩恵にあずかっているか、
というと少し事情は変わってきます。
具体的に何が違うのでしょうか?
予測変換というのは正しいひらがなを入力すると、それに合った漢字が出てくる機能ですよね。
全ての文字を正確に入力する必要はないのですが、初めの3,4文字は正しくないといけない。
正しく入力できる文字が多ければ多いほど、自分の探す言葉を素早く見つけることができます。
ここがポイントになります。
「正しいひらがなを入力しなければならない」
会話では多少発音がおかしくても相手は理解できてしまうので、
コミュニケーションとしては成立します。
しかし、伝えようと思っている言葉を “文字化” しようとしたら、
正しい音を知らないと当然文字にはできない。
コミュニケーションが上手な人も、ここで苦労するわけです。
正しいひらがなが入力できないと、いつまで経っても欲しい漢字がリストに出てこない。
結果、何度も打ち直すので時間が倍かかる。効率悪いですよね。
これが業務の関することであったら、その人物の能力や評価に影響してもおかしくありません。
つまり、口頭でのコミニケーションだけを目的としているのなら
多少の発音のズレや曖昧な発音でも問題はなく、むしろ大事な点は言葉の選び方だったり、
敬語の使い方、お互いの立場を考えた失礼のない表現方法など、他の要素にあったりします。
しかし、書くことが必要なら、書く上で「発音」もまた大事な要素になってくるわけです。
文字のアウトプットの仕方が変化しつつある今、日本語学習者目線で考えてみると、
どうやら「発音・音」とも切り離せないものであるということがわかります。
日本語だけに限らず全ての言語学習に言えますが、
どんな活動を目的にしてその言語を学ぶのかをしっかりと考えた上で、
必要となる学習法と各技能のバランスというものを決めると良いと思います。
*外国人に「伝わりやすい日本語」についても書いています。
そちらも参考にしていたければと思います。